ウォン美音志との対話(その2) 2008年 11月 22日 後藤 誠 氏ブログにて公開
引き続き、6月に『Inner Journey』でデビューを果たしたウォン美音志に話を聞く。
■父親について
――中学生や高校生の頃って、やっぱり父親って嫌だったのでは?
美音志:そうですね(笑)。
――父親が音楽家だったら、音楽とは違う方向に進もうとかは考えませんでしたか。
美音志:その結果が、楽器にも現れているのかもしれません。13歳で『Asian Doll〜香港人形〜』の編曲をやりましたけど、家での作業でしたし、その頃はあまり認識していませんでした。ですがその後人前でいっしょに演奏する機会があったりすると、やっぱり嫌で(笑)。
――そうですね。やっぱり当時は、そういう感じありましたね。
美音志:でも、「音楽をやりたい!」というジレンマはずっと抱えていて……だから続けられたんだとも思います。
――父親がピアノをやっていたから、ギターに行くというのはよくわかるのですが、父親がニューエイジ&ヒーリングみたいなものをやっているから、全然違う方向に行ったんじゃないか?と勝手に想像してみたりもしますが。
美音志:そういう気持ちはありました。でも、ロックやファンク、ジャズっぽいものなど、さんざん何でも自分で打ち込みで作ってみた。
そして「結局オリジナルって何だろう」と考えることになって、自分が本当に作りたい音楽は何?、世の中にまだない音楽は何?、自分の聴いてみたい音楽は何?、みたいに問い続けていくうちに、自然に最大公約数を求めていて、それが今回出した『Inner Journey』みたいな音楽になったんです。
■音楽の作り方
――自分の音楽って、どういうものだと思いますか?
美音志:やぱりヒーリング系、癒し系のエッセンスはあると思うんです。だけど、基本はポップであること。人を惹き付けることができる音楽。
あとアコースティックギターのインストゥルメンタルも、ここ最近はやってますよね。それでも技巧派で、速くて、迫力がある、そういうものが取りざたされる傾向があると思うんですけど、それとは一線を画して、テクニック抜きに曲としても魅力があって、聴いていてリラックスできる……そういうのをひっくるめて、イメージが頭のなかに徐々に出てきたんです。
こういう結果になったのも、いろんな音楽をやってきたからだと思うんです。
――影響を受けたギタリストは?
美音志:パット・メセニー、ラリー・カールトン、ジョン・スコフィールドなど。ひとりには絞れませんね。
――演奏中や作曲中に情景が浮かぶことはありませんか?
美音志:どうでしょうか、基本的に音楽に集中していますから、よく覚えていません。
――曲をつくるときは?リズムから、メロディから、コードから?
美音志:すべて同時進行です。ひとつこだわりがあるとすれば、コードから作ると、他の人と似たようなメロディになってしまうことがあるんで、なるべく自然の流れで出てきたメロディを大事にしています。思ったままメロディを作っていって、それからコードを見直したり編集していく。
――どういう時にメロディが浮かぶのですか?お風呂に入っているときとか?
美音志:ギターを弾きながらつむぎ出すのが主ですが、寝起きとか歩いているときとか、いろいろですね。
――「作曲の神様」はいつ降りてくるのか分からないのですね。忘れませんか?
美音志:忘れないように歌いながら、レコーダーのあるところまで……。最近はケータイでも音声録音できますしね、だいたいいつでも持ってますから。でもそうやって浮かぶのは2小節とか4小節だけなので……。
――そういうのって、あまり使えないでしょう。
美音志:ええ、使えないことの方が多いかもしれません。結構、今も断片的なフレーズが溜まってます。でもそれを形にしていない、それを引き出してあえて作ろうとは思わなくて。
結局ゼロから作りたくなるんですね。頭の片隅には、多分イメージは残っていて、知らず知らずのうちに引き出しているのだと思いますが。
――一度作った曲に、手を加えたくなることはありませんか?
美音志:コードに関してはよくあります。メロディに関してはリズムが崩れることはないです。ただ一音の微妙な高さが変わることはあるかもしれない。メロディがコード・トーンをなぞっていたとしたら、その中で変えることはありますね。
――それはいわゆるフェイクの部類ですね。
美音志:それを作業中にやっていると、メロディがなかなか決まらない。僕は神経質で、もっといいメロディがあるはずだということで、仕事が遅いんですけど、やっぱりなるべく最初にパッと思いついたメロディを最初から最後まで書き留める。ケータイとかは4小節だけど、ギターをもってコンピュータの前で打ち込んでいるときは、なるべくいじらないで、最初から悩まないで最後ま
でメロディを作ったほうがいいと思っています。
――曲の形式は気にしますか?
美音志:つながりは大事にします。サビがあって、それに呼応するメロディがあることはすごく意識します。それは必然のなかであって、最初に出てきたフレーズを弾き終わって、次に行きたい展開で出てくるんですよね、演奏していると。
――タイトルは?
美音志:最後につけます。
――たとえば「知り合いの詩人」につけてもらうとか?
美音志:今回は全部自分でつけました。
――けっこうベタですね。
美音志:ははは。
――ある人が「曲とタイトルは同じ方向ではなく、45度の角度をなすようにつける」とおっしゃってましたが。
美音志:タイトルにこだわりがないといえばないんですけど。
――でも、聴く人はいろいろイメージすると思いますよ。
美音志:しますよね。逆にいうと「聴く人のイメージに任せたい」というのがあって。昔のクラシックの曲なんかは作品番号なんかですよね。
逆にその方が面白いのかな、という気持ちもあります。たとえば「遠景」というタイトルでも、いろいろありますよね。音楽を聴いたら、だいたい同じような風景が思い浮かぶのかもしれないけれど。
――人それぞれでしょう。ただ音楽用語が入ってくると、かなり限定されちゃうでしょうね。
美音志:もともとタイトルから作ったり、イメージ、この景色を見たから曲を作りたいというのはないので、タイトルで作品のイメージを左右したくない、というのはありますね。
――仕事を依頼する側は、映像や小説など、限定されますよね。
美音志:でも僕のなかにも、ひとつひとつの曲に、明確なイメージというのはあるんです。でもそれを言葉にしたり、文章にしたり、絵にしたりというのは苦手なんです。唯一、音楽で表現するのが得意なんで。僕の頭の中で感じているイメージを表現しているとは思うんですよね。
――歌を入れるとかは?
美音志:「Fly」と「Song for a Rainbow」で一応入っています。自分で入れたんですけ
ど、「Song for a Rainbow」に関しては機械の力を借りて、少年っぽい声に変わってます。
――ナイロン弦のアコースティック・ギターに、スティール弦のフォーク・ギター、そしてエレキ・ギターにウクレレを使ってるんですね。ベースは打ち込みですか?
美音志:いや自分で弾いています。キーボードはクオンタイズしたものもあったり、「Fly」という曲ノリード・シンセについては親父が弾いています。
――結構、聴いていて、最初の方が、生ギターで情景があって、「Float on Arpegio」はプカプカ浮いている感じが出ていて。「To Fly」に行くと、なんか宇宙に行っているのかな、という気がするんですよ。抽象的というか、音とタイトルでイメージさせるものがあるんですよね。
でも「記憶の中の僕」になると情景が出てこない。具体的ば場所がない。どこでもよくて、心の中とか頭の中の世界なのだろうか。
美音志:「記憶の中の僕」というのは他の曲より具体的なタイトルですよね。
――でも、クラシックのような作品番号だけよりも、なんかタイトルはつけたほうがいいと思います。無機的なタイトルより、シンプルで分かりやすい、英単語なり日本語の方が、聴く人は共感しやすいのかな。
美音志:今、その話を聞いて思ったのは、僕自身、音楽を聴いている時に曲のタイトルはあまり意識しないんですよね。印象だけが残っている。
――それは音楽の作り手だからでしょうね。その音楽がどういう状況でどういう意味をこめて作られたなんて、どうでもいい話かもしれない。 出てくる音がよければいい、という。
美音志:そうかもしれない。
――でも、私は、大半の人は音楽に、ドラマを求めたいんじゃないかな と思うわけです。偉大な作曲家や演奏家が、死んでずいぶん経ってからから、未発表の譜面や音源が発見されて、大ニュースになるでしょ。偉そうな評論家が出てきて「今回の発掘の歴史的価値は計り知れない」と か言う。たぶん死んだ本人にしてみれば、俺が没にしたんだから、勝手に公開するな、と思うんだけど。
美音志:ははは。
(以下次回に続く)